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経営者のための AI × 事業戦略 ─ 学ぶ・認める・共に創る。

デジ革 一般社団法人デジタル経営革新協会
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COLUMN ・ 2026-06-05

あなたの「知的アドバンテージ」を見つける

権 成俊

あなたの「知的アドバンテージ」を見つける

前回は、AIオーナーシップを発揮するには、自分にしかできないことから出発する必要がある、というお話をしました。

では、その「自分にしかできないこと」とは、いったい何なのでしょうか。

「自分にしかできないこと」。そう言われると、多くの人はハードルの高さを感じます。何か特別な才能や資格が必要なのではないか、何十年もかけた専門性がなければならないのではないか、と。

違います。

私が言う「あなたにしかできないこと」は、おそらく皆さんが想像しているより、ずっと身近なところにあります。それを私は「知的アドバンテージ」と呼んでいます。

知的アドバンテージとは、あなたが生きてきた経験、向き合ってきた問い、気づいてきたことの積み重ねから生まれる優位性のことです。特別な才能ではありません。あなたが何を大切にしてきたか、どう考えてきたか、何に時間を注いできたか。それが凝結したものです。

なぜ私が、これほど「あなたにしかできないこと」にこだわるのか。その理由を、まず私自身の仕事を通じてお話しさせてください。

なぜ、経営者の「価値観」から戦略を立てるのか

私はコンサルタントとして、中小企業の経営戦略を立てる仕事を長年してきました。そのとき私がまず行うのは、市場の分析でも競合の調査でもありません。その経営者の価値観を、深く掘り起こすことから始めます。

なぜ、そんなことから始めるのか。

理由は、中小企業という事業の構造にあります。

大企業には、潤沢な資源があります。人、お金、時間、ブランド。だから大企業は、「誰がやっても一定の成果が出る仕組み」を作ることで勝てます。優秀な人材を大量に採用し、巨額の広告費を投じ、整った組織で物事を進める。極端に言えば、経営者が誰であっても、資源の力で押し切ることができるのです。

しかし、中小企業には、その資源がありません。

人も少ない。お金も限られている。広告に何億円もかけることはできない。では、中小企業は何で大企業と戦うのか。何を優位性にするのか。

答えは、**経営者自身の「時間」と「魂」**です。

これは、どういうことか。

資源が少ない小さな会社では、経営者がどれだけその事業に深く時間をかけられるか、どれだけ本気で魂を込められるか——それ自体が、他社には真似のできない優位性になります。大企業の社員は、与えられた仕事として事業に向き合います。しかし中小企業の経営者は、自分の人生をかけて、寝ても覚めてもその事業のことを考え続けることができる。この「深さ」だけは、資源では買えないのです。

だとすれば、経営者が心の底から時間をかけられる事業、魂を込められる事業でなければ、その唯一の優位性は発揮されません。

ここで重要なのが、価値観です。

人は、自分が本当に大切にしているものにしか、心の底から時間をかけられません。本当に「これは意味がある」と信じられることにしか、魂を込められません。だから私は、経営者の価値観を深く掘り起こすのです。その人が何を大切にしているか、どんな未来を望んでいるか、何に怒り、何に喜びを感じるのか。

その根っこが見えて初めて、「その人だからこそ本気になれる事業の形」が見えてきます。

これが、私のコンサルティングの核です。「価値観を戦略に」。 経営者の価値観という根っこから、その人にしか作れない、その人にしか本気になれない事業の形を探していく。それが、資源の少ない中小企業が、大企業のいない場所で勝つための道なのです。

命名の迷いと、事業の迷いは、同じ根っこを持っていた

数年前、私は子どもの命名に悩む親たちの話を聞く機会がありました。

赤ちゃんに名前をつけるとき、親はさまざまな思いや願いを込めます。多くの親が、名前を決める段階で深く迷います。候補が出ては消え、迷いが続く。

なぜ、こんなに迷うのか。私はそれを考えました。

そして気づいたのです。迷いの根っこは、文字や響きの問題ではない、と。

親が本当に迷っているのは、「この子にどんな人生を歩んでほしいか」「どんな幸せを手にしてほしいか」——その想いそのものが、まだ言葉になっていないからです。根っことなる思想が、まだ固まっていない。だから、その上に乗せるはずの名前も、定まらない。

ここで私は、はっとしました。

これは、経営者が事業戦略を立てるときに直面することと、まったく同じ構造ではないか、と。

経営者も、表面的には「どんな商品を出すか」「どう売るか」で迷っているように見えます。けれど本当の迷いの正体は、その手前にあります。「自分は何を大切にしているのか」「この事業を通じて何を実現したいのか」——その根っこの思想が、言葉になっていないのです。

そして親も経営者も、共通しているのは、その根っこが自分の中に「ある」ことすら、本人は認識できていないという点です。言葉にもなっていない。意識すらしていない。けれど確かにそこにあって、すべての出発点になっている——そういう概念が、人の中にも、事業の中にも、必ず眠っているのです。

想いを聞き出すには、スキルと時間がかかった

そこで私は、親御さんの想いと願いを聞き出すことに取り組みました。

最初は、人の手でやっていました。私自身が、あるいはスキルを持った人間が、親御さんに一対一でインタビューをして、その奥にある想いを少しずつ言葉にしていく。

しかし、これには問題がありました。

想いを引き出すには、相応のスキルが必要です。そして、時間もかかる。じっくりと対話し、本人も気づいていない想いを掘り起こしていく作業は、一件あたり数万円のコストがかかるものでした。

それだけの価値があると分かっていても、これだけのコストがかかるのでは、たくさんの方にお届けすることは難しい。多くの親御さんに使ってもらえるサービスには、なりませんでした。

そこに、AIが登場しました。

AIにこの「想いを引き出す考え方」を学ばせて、人の代わりに親御さんと対話させることができれば——たくさんの方の命名を、お手伝いできるかもしれない。

そう思ったのです。

こうして、親御さんがAIと対話しながら、自分の中にある想いと願いを少しずつ言葉にしていき、最後に「わが子に贈る、はじめての手紙」として仕上がるサービスが生まれました。「きみの名前はね」です。

なぜ、私にこのサービスが作れたのか

なぜ、私にこのサービスが作れたのか。

それは、私が長年やってきたコンサルティング——人の言葉にならない価値観を掘り起こし、それを形にするという仕事——その経験から、子どもの命名という、まったく別の領域でも、価値観がベースになって名前が生み出されていることに気づけたからです。

別の仕事をしてきた人には、おそらくこの構造は見えなかったでしょう。私のコンサルタントとしての経験、つまり私の「知的アドバンテージ」があったからこそ、見えたのです。

ここで、誤解しないでいただきたいことがあります。

私が伝えたいのは、「コンサルタントになりなさい」ということではありません。私の例は、あくまで一つの例にすぎません。

大切なのは、もっとシンプルなことです。

あなたが他の人よりもたくさん経験したこと、詳しく知っていること、興味を持って深く考えられること——そんなテーマを掘り起こしましょう、ということです。

こう言うと、「自分には特別優れたスキルなんてない」と思う方がいるでしょう。

ここで、もう一つエピソードを紹介させてください。

葉若先生が教えてくれたこと

私の恩師に、葉若先生という方がいます。

葉若先生は、大学で研究をしたあと、民間企業に移り、各国でフィールドワークを行い、最後に学校の先生になった方でした。一本の道ではなく、いくつもの道が重なった人生を歩んでこられた方です。

その先生の言葉には、デスクの上だけでは決して出てこない、リアリティがありました。研究者としての言葉で、社会の現実を語ることができる。学問の理論と、現場で見てきたものとが、その人の中で一つにつながっている。

私はそのとき、初めて気づきました。**「掛け合わせの人にしかできないことがある」**のだ、と。

一つの分野を究めた専門家には、その分野の深さが見えます。けれど、複数の世界を行き来してきた人には、その世界と世界の「あいだ」が見えます。どちらも、立派な知的アドバンテージなのです。

ここで、大事なことをお伝えします。

知的アドバンテージとは、必ずしも「何かで一番である」ということではありません。

葉若先生は、研究者として日本一だったわけでも、ビジネスマンとして突出していたわけでもないかもしれません。けれど、一つに特化しなかったこと、それ自体が価値だったのです。いくつもの道を歩いたからこそ見える景色が、その人にしかない強みになりました。

そして、もう一つ。

知的アドバンテージは、世間一般で「価値がある」とされること、「お金になる」とされることでなくても、まったく構いません。

ゲームばかりしていたからこそ気づくことがある。何もせずにゴロゴロしてばかりいたからこそ、考えられることがある。

あなたの経験の中に、すでに眠っているもの

野球だけをやってきた人には、野球の世界が、誰よりも深く見えています。

では、夏休みのあいだ、ずっとゲームをしていた人は? 一日中ネットを見続けていた人は? 何もせず、ごろごろしていた人は?

「そんな人には、何の強みもない」と思うかもしれません。

でも、違うのです。

ゲームをやり込んだ人には、ゲームのどこが面白くて、どこがつまらないかが、手に取るように分かります。どんな瞬間に人は夢中になり、どんな仕掛けに飽きるのか。それは、表面だけ触れた人には絶対に分からない、深い理解です。

実は、研究の世界でも、これを裏付ける発見があります。

英国セントラル・ランカシャー大学のサンディ・マン博士らは、2014年、「退屈な時間が、人の創造性を高める」ことを実験で示しました(The Creative Benefits of Boredom, HBR 2014)。何もしない時間、ぼーっとする時間こそが、人の想像力を育てるというのです。

考えてみれば、これは腑に落ちる話です。

詰め込み型の教育で育ち、誰かが立てた問いに、用意された正解を答え続けてきた人。その人は、「答える力」は鍛えられたかもしれません。けれど、自分で問いを立てる経験は、ほとんどしてこなかった。

一方で、何もない空き地で、退屈をもてあましながら、「何をして遊ぼうか」と自分で考え続けてきた人。その人は、自分で問いを立て、自分で答えを見つける力を、知らず知らずのうちに育ててきたのです。

AI時代に問われるのは、まさにこの「自分で問いを立てる力」です。なぜなら、答えを出すことは、これからAIが驚くほど得意になっていくからです。だからこそ、「何を問うか」を決められる人の価値が、これから一気に高まっていきます。

「でも、それで儲かるの?」という問いに

ここまで読んで、こう思った方もいるでしょう。

「一見価値がないようなことでもいい、と言われても……そんなニッチなことで、たいして儲からなさそうだ」と。

相対的に見れば、その通りです。世間一般で価値があるとされることに比べれば、あなたの「好き」や「こだわり」にお金を払う人は、少ないかもしれません。

けれど、ここにAIの、もう一つの価値が効いてきます。

それは、言語化する力と、伝える力です。

これまで、あなたの中にある価値は、たとえ本物であっても、うまく言葉にできなかったり、必要としている人に届かなかったりして、お金にならずに眠っていました。AIは、その「言葉にする」「届ける」という部分を、強力に助けてくれます。

その結果、たとえお金を払ってくれる人が、一つの地域には少ししかいなくても——日本中、世界中の「その価値を求める人」に広くリーチできるようになります。一人ひとりは小さくても、それを集めれば、じつはそれなりの商売として成り立つのです。

この仕組みについては、また別のコラムで、詳しくお話しします。

それが、あなたの出発点になる

ですから、「自分は何もしてこなかった」と思っている人こそ、実は誰よりもユニークな経験を持っているかもしれません。

特別な肩書きや、立派な実績のことを言っているのではありません。あなたが何に時間を費やし、何を面白いと感じ、何に違和感を抱いてきたか。その積み重ねそのものが、あなたにしかない財産なのです。その経験の中に、あなただけが気づける何かが、必ず眠っています。

それが、あなたの知的アドバンテージです。

まず、それを見つけること。そして、それをAIで何十倍にも広げていくこと。

この二つが、AI時代を生きるあなたの、新しいキャリアの出発点になります。次回以降、その「広げ方」を、具体的にお伝えしていきます。

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