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CASE STUDY

上澤梅太郎商店(漬物店・日光)

らっきょう特化のリブランディングと、朝食専門店でインバウンド獲得

日光の老舗漬物店が、らっきょう特化のリブランディングで営業利益10%増を達成。さらに自社の食文化を「朝食専門店」という新業態に転換し、インバウンド獲得の芽をつかんだ事例。

栃木県日光にある漬物屋「上澤梅太郎商店」。江戸時代に創業し、400年の歴史がある。倉庫業から、味噌、しょうゆ、たまり漬けと歴史を追うごとに扱う商品を変えてきた超老舗も、一時会社の存続が危ぶまれた。同社が起こしたイノベーションを見ていきたい。

日光の漬物屋である上澤梅太郎商店の売り上げがピークだったのは、バブル時代だ。ただ多くの企業同様、その後売り上げは次第に減少し、最近はピーク時の3分の1にまで落ち込んでいる。

同社の売り上げが落ちた理由は、大きく2つある。上澤梅太郎商店のビジネスモデルは、日光に遊びに来た観光客にお土産としてたまり漬けをまず購入してもらい、その後お中元やお歳暮の時期にECサイトやカタログ販売を通じてリピート注文してもらうというものである。新規の集客は観光客が中心なので、日光の観光人気の落ち込みにまず影響を受けた。1999年に日光の社寺が世界遺産に登録されたことで外国人観光客は大幅に増えたものの、外国人はほとんど漬物を買わず店舗に立ち寄りすらしない。

もう1つの理由は、国内の漬物市場の縮小だ。経済産業省の工業統計によれば、漬物市場は平成24年(2012年)までの10年だけで約3割も縮小している。日本人の食の多様化などにより、上澤梅太郎商店も市場縮小の影響を受けたのは間違いないだろう。危機感から長年値上げを行ってこなかったこともあり、重量当たりの価格は競合他社と比べて3~4割も安かった。消費税も内税にしていたため、原価率も食品としては高い。

となると、同社が目指すべきは単なる集客や販売数の増加ではない。沈みゆく市場でトップシェアを取っても、長い目で見れば市場縮小に伴って売り上げは縮小し続けるからだ。目指すべきは、新しい価値を定義し、新しい市場を作ることである。つまり自らの手でイノベーションを起こすのだ。しかも同時に、短期的な業績回復も実現しなければならない。

売れないのは価値がないため? ─ らっきょうリブランディング

「たまり漬け」の登録商標も同社が持っていることから分かるように、たまり漬けは上澤梅太郎商店の先々代の代表、上澤梅太郎が開発したものだ。味噌の上澄み液である「たまり」に野菜を漬け込み、深みのある味わいのある漬物を生み出したのである。同社の成功を見て、近隣の味噌店やしょうゆ店もこぞってたまり漬けを作るようになり、かいわいは「漬物街道」と呼ばれるまでに活気を帯びた。ただ元祖だけあって上澤梅太郎商店のたまり漬けは評価が高かった。

特に人気が高かったのがらっきょうのたまり漬けだ。売り上げ全体の4割以上を占めるほどで、シャキシャキした独特の歯ごたえは雑誌のらっきょう特集でも高い評価を得ている。秘密はこだわりの製造方法にある。使うのはえりすぐりの大粒の国産らっきょうのみ。加熱殺菌をしていないため、らっきょうが柔らかくならないことから独特の食感がある。半面、賞味期限が短くなるため、毎日翌日の販売分だけを樽(たる)から出して袋に詰めている。良い素材を使って手間を惜しまないのが、上澤のたまり漬けの最大の特徴だ。

しかし、UX(ユーザーエクスペリエンス、顧客体験)をひもといていく中で、消費者にはその価値が十分に伝わっていないことが分かってきた。まず、粒が大きすぎて一口で食べにくいこと。刻んでご飯と一緒に食べてほしいというのが同社の考えだったが、一般的ならっきょうの漬物は小粒で一口で食べるもの。多くの消費者に、単に食べづらい商品というイメージをもたれてしまっていた。そのまま食べると塩気が強すぎると思われていたことも分かった。店頭の試食コーナーでは漬物単体で提供しており、ご飯と一緒に食べたときのおいしさが伝え切れていなかった。せっかく試食してもらったのに、「しょっぱすぎる」と感じられてしまい、うまく購買に結びついていなかった。ECサイトやカタログ販売についても、自社のこだわりや長い歴史、市場で高い評価を得てきたことについてアピール不足だった。

そこで上澤梅太郎商店は、短期的な施策ながら、らっきょうを中心としたリブランディングを行った。商品の持つイメージと購入後の顧客体験を向上させることを狙った。魅力が伝われば多少高くても購入してもらえると考え、同時に値上げも実施。消費税を外税とし、一部原価率の高い商品は分量を減らすなどした。

具体的な施策としては、みずみずしさや漬け方が生む独特な美しい色のグラデーションが伝わるような水彩画を描き、パッケージデザインに採用することにした。競合他社の商品と比較して、シャキシャキ感や高い鮮度が感じられるようにこだわった。これをECサイトやカタログ、梱包用の紙袋に印刷し、さらに店舗ののれんや工場の壁にも貼りつけ道路沿いを通過する車にもアピールした。UX改善のため、刻んで食べる商品であることや、ご飯やお茶漬けのお供に食べるとおいしいことなどについても、徹底的にECサイトやカタログで訴求するよう改めた。

結果はどうだったか。リブランディングは奏功し、値上げによる効果で粗利率は10%程度向上。売り上げも、当初の減少予想に対して前年比99%にとどまり、売り上げ減に歯止めがかかった。営業利益は10%増となった。

AB3C分析において、「A」と「B」を合わせたものを「戦略メッセージ」と呼ぶ。上澤梅太郎商店は、ベネフィットとアドバンテージを戦略メッセージに仕立て、顧客に自社商品が選ばれる理由を生み出すことに成功した。以前の同社のビジネスモデルをAB3C分析すると、観光客に対してたまり漬けをただまとめて訴求していただけだった。「たまり漬けはおいしいですよ」と漠然とした戦略メッセージを打ち出すだけだったので、競合と比較してアドバンテージがなかったと言える。思い切って商品をらっきょうに絞り、ターゲットもらっきょうの漬物に関心がある消費者に絞ったことで、伝えるべき自社のアドバンテージが明確になった。だからこそ、ビジュアルデザインやコンテンツに関しても対策に具体性が生まれた。消費者の目には競合他社よりも良い商品として映るようになり、試食してもらう際にもおいしさを引き立てる食べ方を訴求できた。UXを一気に改善できた好例と言えるだろう。

「一汁三菜」と「口内調理」─ 漬物店が朝食専門店を出した理由

前段で紹介した上澤梅太郎商店のリブランディングは、実はECそのもので改革を起こしたわけではない。AB3C分析によって、まったく予期せぬ別業態に進出し、そこで成功の種を見つけた興味深い展開があった。

平成24年(2012年)までの10年だけで約3割も縮小した漬物市場。上澤梅太郎商店が本格的な業績回復を果たすためには、漬物市場でシェア拡大を図るだけではなく、成長市場に向けて新たな価値を提案する必要があった。しかし中小企業にとって、全く新しい市場に足場を作るのは簡単なことではない。そこで上澤梅太郎商店は、現在の市場の周辺で商品を受け入れられるシーンがないかと考えた。

新しい市場を探すため、まず自社の歴史と強みを分析した。50時間程度の社内ヒアリングを通じて見えてきたのは、上澤家の食への強いこだわりだ。自社商品やその食べ方についてのこだわりはもちろん、競合商品との違いや、理想的な食事に対する価値観、果ては和食の文化や歴史など、食に対するこだわりが随所に眠っていることが分かった。主力商品である味噌や漬物を支えているのは、実は深い知識や確立された価値観だったのである。

特に印象的だったのは、上澤家の食事スタイル。1日3食の食事の中でも朝食を最も大切にしており、必ず「一汁三菜」が用意される。それも大皿ではなく、おのおのの皿に分けて出す。一汁三菜とは、「ご飯」「味噌汁」に加えて、3つのおかずを用意すること。この朝食を15年前からおいしそうな朝食を毎日写真に撮り、ブログに掲載してきた。毎日7品程度が用意される写真を見た海外の社長の友人が「日本に帰ってきたらぜひ上澤の食事が食べてみたい」と希望し、後日わざわざ泊まりに来たことがあるエピソードもあるほどだ。

毎日凝った朝食を用意するのに手間がかかっていると思うかもしれないが、女将の上澤りえ氏によれば大変ではないらしい。当日作るのは味噌汁と玉子料理くらいで、あとは常備菜や残り物、もらい物の野菜、自社の商品である漬物などだそうだ。全部作るのに15分くらいしかかかっていないという。

「ポイントは一汁三菜と口内調理」。そう語るのは長男の上澤佑基氏だ。口内調理とは、ご飯とおかずを口の中で混ぜ合わせて食べることを指す。口の中の混ぜ合わせ具合によって、食べる側が好みで味付けを完成させられることを朝食では重視している。口内調理によって味が濃い時にはご飯で薄め、味が薄い時には漬物などで味を足し、油が強い時には味噌で緩和できる。これを前提に毎日一汁三菜を作る。和食独特の食べ方が柔軟性をもたらしているわけだ。

この話から、彼らのビジネスの本質は、単に漬物を売ることではなく、上澤家が体現してきた「朝食の食べ方」にあることが分かる。上澤梅太郎商店は、この朝食の価値観を「ぜいたくではないけれど、豊かな朝食」と定義し、「上澤の朝食」と名付けた。それを1人でも多くの人に伝えて実際に体験してもらうために、朝食専門店を開業するという新ビジネスを思いついた。また、自宅でも再現できるように「朝食セット」も販売することにした。

漬物店から朝食店へ――。大胆なイノベーションの過程で、従来の日本人観光客はもちろん、インバウンドで日光に来る外国人客も狙えることが分かった。というのも日光の外国人観光客は増加傾向にあるものの、多くは東京に宿泊しているので日帰りしてしまっているからだ。上澤梅太郎商店はここにチャンスを見つけた。ホテルや旅館で朝食を食べない外国人観光客なら、朝食だけを食べられるレストランがヒットする可能性がある。ちょうど上澤家には広い敷地の和風庭園があり、築100年の日本家屋があった。外国人客が和朝食を楽しむ環境としては最高の場所と言えよう。

そこでまず、落語を楽しんでもらった後、簡単なおにぎりと味噌汁を和朝食として提供したり、朝食だけを食べるイベントなどを開催したりした。まだまだこれからのビジネスだが、手応えを感じている。

朝食店開店の取り組みをAB3C分析で見てみよう。これまで漬物自体に関心が薄い外国人観光客はビジネスの対象に入らなかったが、無形世界遺産になっている和食を通じてであれば呼び寄せやすい。日帰り圏内の観光地ならではの、ブランチやランチ需要も期待できる。旅館やホテルは一般的に宿泊客以外に朝食を提供しない。朝食から営業しているレストランも近くにはほとんどない。競合に比べた時の優位点はそこにある。新しいAB3C分析に従って、上澤梅太郎商店が漬物市場からの脱却を図ることに成功しつつあるのは実に興味深い。


(出典)「野菜漬物(果実漬物を含む)の出荷金額」(経済産業省の工業統計より)

出典: 日経クロストレンド「選ばれるECサイト戦略講座」(2019-06)

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